インタビュー

株式会社 山翠舎|イケてる会社のイケてるオフィスインタビュー

古木™ (こぼく)を使った空間づくりをされている山翠舎さんに行ってきました!今回、訪問したのは、恵比寿にある東京支社。代表の山上様に色々なお話を伺いましたので、編集部の佐々木がお届けします。

何をされている会社ですか?

弊社は1930年(昭和5年)に長野県の木工所(建具屋)からスタートした会社です。

創業から80年以上が経過する中で、住宅建築、店舗内装業を経て、「古木™」を使った「お店づくり」、そして「古民家」の移築・再生事業までを手掛ける施工会社へと成長しました。その中で、様々なノウハウの蓄積があり、現在に至ります。

主事業の一つとして、「空間づくり」をトータルでサポートしています。

一般的な工務店であれば、施工のみを請け負うケースがほとんどです。しかし弊社は、「空間づくり」の事業構想の段階の企画・立案から、デザイン・設計、そして施工から引き渡し後の集客や経営・運営のアフターサポートまで行っております。

お店作りの場合には、お客様と事業の構想段階から打ち合わせをさせてもらい、開業後の運営のサポートを行う点が、他社にはない弊社の特徴です。

ただ、空間を作って終わりではなく、koboku®倶楽部というオーナー様が集う会員制のサロンがあります。参加者の交流やさまざまな情報共有など、経営を全面的にバックアップしていきます。

こうした一貫体制に取り組めるチームを整えているので、お客様のイメージをカタチにしやすい体制になっています。

さらに、自社倉庫・自社木工場も所有しているため、造作の家具まで当社で完結することができます。

弊社の家具は、無垢材(木を伐採してカタチだけを整えた材)を使って製作しているので、外面が覆われているような再現性のある工業製品とは違い、純粋に一つとして同じものはありません。

ですので、カタログから家具を選んで購入するイメージではなく、一つ一つ打ち合わせを重ねて、一点物の家具を製作していきます。

発注者であるお客様が、実際に家具を製作している職人に自らのイメージを伝えることができるのも、弊社の強みの一つです。

代表取締役 山上浩明様

古木™を使った「お店づくり」をされていますね。
「古木™」(こぼく)とは何でしょうか?

例えば地方の田舎町に古民家がポツンとあって、それが解体されなければならなかったとします。

その古民家の持主様や関係者様が、「これからもずっと存在してほしい」と願ったもの、それが「古木™」です。

具体的には、古民家の柱や梁などの部位で、入手場所が分かっている古い古材を指します。

その一本一本には、受け継がれてきた想いやエピソードがあり、ひとつとして同じものがありません。

弊社はそんな「古木™」を、責任をもって預かり、「お店づくり」として新たな形で生まれ変わらせることで、「古木™」の魅力を人から人へ受け継いでいく手助けができたらと考えています。

古木™の所在(場所、木の種類、部材の使われ方、築年数)がわかるように、タグを付けている。

「古木™」の魅力とは何でしょうか?

「古木™」とは、共に過ごしてきた方々が、今後も「誰かに古材を引き継いでもらい、この世のどこかに存在してほしい」と願われたものです。

このように連綿と続くストーリーが背景にあるだけではなく、国産の「古木™」は「木材のリサイクル品」として、現代で見直されています。

そもそも「木材」とは天然素材ですので、独特の風合いや温もりがあるのは、言うまでもありません。

また、人工的に作られた合板と違い、シックハウス症候群の原因となるVOC (揮発性有機化合物)の軽減にも一役を買います。

そして、近年では「長寿命」というキーワードが建築や建材にも要求されます。

そのような状況の中で「木材のリサイクル品」としての「古木™」や「古材」の価値は非常に高くなってきています。まさに、人体にも環境にも優しい材料と言えます。

「古木™」の長所を教えてください。

「古木™」の長所は、「表面」、「中身」、「ストーリー」と、大きく3つに分けることができます。一つ目ですが、古木™の表面には、古くから培われてきた職人の手仕事や技の軌跡が残っています。

(ちょうな)、(のみ)、鉞まさかり)などの道具を使ったダイナミックな ”手仕事のあと” です。

昔は釘や金物を使わず、木組みをしていたので、”ほぞ穴”などの痕跡も残っています。古木の曲がりや反りが一本一本違うのと同じように、職人の手仕事のあとも、古木™によって全く異なります。また、古木™は独特の色合いを持っており、艶があるダークブラウンのような輝きを放ちます。古民家の柱や梁として、長い年月をかけて風雪や自重に耐えてきた古木は、実は囲炉裏の煙やススにより燻されてきているのです。

長い時間をかけて燻された木肌の汚れやススを取り除いて磨いてあげれば、艶のあるダークブラウンが現れてきます。

二つ目の古木™の中身についてですが、実は古木™って、とても高い強度を持っています。
木材というのは、伐採した時が一番強度が弱く、時間の経過と共に乾燥が進み、強度を増していきます。それは人間と同じで、歳を重ねるごとに成熟して強くなっていくのです。

反対に、鉄のような一般的な鋼材であれば、製造した日付が新しければ新しいほど、強度的には保証されるものです。

例えば、法隆寺に使われている古材は、新材より強度的に強いという実験結果もあります。 『法隆寺を支えた木』西岡 常一,小原 二郎 、NHKブックス 1978/  『木の文化をさぐる』小原 二郎 NHKブックス 2003

古い木材だからといって、決して弱いものではないのです。
三つ目のストーリーですが、古木™には柱や梁の一本一本に、物語が宿っています。

古民家としの長きにわたる時間の中で、住まう人と共に歩んできた歴史や想いがあり、やむを得なく手放すことになってしまった古民家でも、我々が責任をも持って、そこで育まれたものを、次世代へ引き継いでいければと思っています。

古木™を通して、 ”人と人が繋がっていく” 。
これがとても大切なことだと思っています。

古木™の扱いには、職人の高い技術を必要とする。

古木™の表面。経年変色や、燻された跡が残る。

木組みの際に使用されたほぞ穴。昔は金物を使っていなかった。山翠舎の施工も、できるだけ釘を使わない。

「古木マーケット」という、日本で最大級の古木・古材の販売サイトを運営している。

古木®(KOBOKU®)の商標登録証

「古民家」事業ついて、何をされているか教えてもらえますか。

一般的に「古民家」とは、半世紀以上前から家族の暮らしを見守ってきて、伝統構法により建てられた住宅のことです。全国には、ながきにわたり家族の暮らしを見守ってきて、役目を終えようとしている「古民家」がたくさんあります。

その持ち主様の多くは、家族との思い出がたくさん詰まっているので、「手放したくない」と思う反面、維持・管理などに悩まされているケースが多いです。そこで弊社が提案しているのが、「古民家」の「移築・再生プロジェクト」です。

「古民家」を「活用したい人」と「手放したい人」をマッチングして、事業者(もしくは個人)と持ち主様の双方が納得のいく提案を行います。

そして、事業者様は「古民家」を「お店づくり」などの、事業用として活用してもらい、「古民家」が第二の人生として歩む道しるべを山翠舎が提供いたします。前述にもあるように、「移築・再生プロジェクト」は弊社のノウハウやサポート体制をフル活用して、「空間づくり」をトータルでサポートしていきます。

古民家の空き家数は、2018年には全国で21万戸となっている。

広尾のオフィスでこだわった点はありますか?

東京支社のオフィスのコンセプトは、「古木™」を使った空間の居心地の良さを体感していただくことです。

「古い木」を使いプランニングを進める、と聞くと「空間が重たい印象になってしまうのでは?」と懸念されることがあります。しかし、適材適所で使用することによって、モダンな内装のデザインにもとてもマッチして、居心地の良い空間を演出することができます。

一昔前であれば、古い木を使った店舗の内装のイメージは、「古民芸調の居酒屋さん」が思い浮かばれることが多かったのではないでしょうか。どのようなコンセプトにせよ、「古木™」や「古材」を適材適所に使用し、部材をそのまま使うのではなく、研磨して色合いを変えたり、表面処理を施したりすれば、現代の店舗空間の中で、蘇ることができます。

部材の表面を削ったり、研磨するだけで、一本一本の風合いや色合いの違いがでてくるのも、「古木™」ならではの魅力です。

来客スペース。白を基調とした空間に、古木を使った梁と柱がアクセント。椅子などの木のファニチャーも自社工場で製作している。

 

社内打合せスペースにある、Cisco Webex Board 70 (https://www.cisco.com/c/m/ja_jp/solutions/cisco-start/case-studies/1616-sansui.html各拠点を繋ぎ、テレビ会議を行っている。

 

打ち合わせ用の古木™テーブル。大手コーヒーチェーンでも、テーブルやカウンターで古木™が使用され始めている。

社内打合せスペースにある、カウンター。

 

アトリエ風の執務スペース。

 

モニター越しに見える、長野本社。執務スペースにあるモニターは長野本社と常時繋がれている。

 

弊社は店舗だけでなく、ワークプレイスも手掛けています。

いわゆるオフィス空間に対してですが、「古木™」や自然素材(木材)を使った空間をこれまでも提案してきました。木材を使用したオフィス空間は、ナチュラルな雰囲気で、素材ならではの色合いや温かみで、誰にとっても居心地の良い空間を作ることができます。

今後は店舗だけでなく、オフィスづくりにも力を入れていきたいと考えています。スタッフ同士のコミュニケーションがより円滑になったり、良いアイディアが降りてきたりするなど、スタッフやお客様とのディスカッションが活性化することをお約束いたします。

山翠舎が手がけた、株式会社いまでやの千葉北ロジスティックセンターのオフィス。鉄骨あらわしのマットブラックな天井、足元のOAフロアも仕上げに木目の塩ビタイルを使用している。色彩と素材がバランスを保ち、落ち着いた執務空間を演出している。

 

木材とスチールの素材のバランスが素敵。一個一個の椅子の形状も違って、遊び心がある。椅子という”部分”が、全体に調和をもたらしている。

木カウンターとタイル。

会議室の壁を一つ木質化するだけで、落ち着いた印象が生まれる。

御社の事業内容は環境にとても優しいですね。最近では、サステナビリティやSDGsがキーワードとしてあがりますが、御社の取り組みについて教えてください。

弊社は、本社のある長野県から「長野県SDGs推進企業」として登録を受けています。長野本社では「SDGs交流スペース」を工事中です


長野本社で工事中の「SDGs交流スペース」のスケッチパース

 

このようなことから、事業内容がSDGsの達成目標に対して、関連性が非常に高いと評価していただいていると、受け止めております。

手がけている事業内容を包括的に見ていただければわかると思いますが、「古木™」を軸とした「KOBOKUエコシステム」が形成されています。SDGsの達成目標やサステナビリティ、昨今の社会問題となっている空き家の問題に対して、我々はこのエコシステムでソリューションが提供できると考えています。

長野県SDGs推進企業登録証。

「KOBOKU エコシステム」の概念図

 


「KOBOKUエコシステム」は、2019年に林野庁ウッドデザイン賞を受賞している。

 

山翠舎の解体は、ただ安く建造物をそこに無くす、ということはしたくありません。
今まで、100年、200年と住まう人を守っていただいた建造物(古民家)に感謝と経緯を払った解体をするよう心がけています。人間の寿命を超えて存在していることは神秘的。自然に対しても同様に、謙遜する姿勢が大切なのだと考えています。

その中で、解体の際に生じる廃棄物を最小化することもできますし、古民家のマッチング事業を通して社会問題である空き家の問題の解決もできます。
さらに地方に点在する「古民家」を地域資源ととらえて活用を見出せば、地域経済の活性化にもつながります。

「古民家」を解体した際に生まれる「古木™」や「古材」は、リサイクルという観点で考えてみれば、廃棄を抑制するという意味で環境問題の解決にも一役を担えると思っています。

「全方よし®」のモデル図。

将来の展望をおしえてください。

前述にもありましたが、「古木™」を軸とした「KOBOKUエコシステム」を推進していくことです。

今風に言えば、古木のサーキュラーエコノミーを完成させるイメージです。そのエコシステムを推進していく中で、環境問題や社会問題(空き家)に対してのソリューションの提供にとどまらず、ステークホルダーの全員が笑顔になれるになる「全方よし®」のモデルを作っていきます。

「古木™」の素晴らしさを、日本はもとより世界中へ届けていきながら、「古木™」を通して、人と人を繋いでいければと思っています。


古木屋松治郎ブランドは東急ハンズ新宿店6階にて販売している。近々イベント開催予定とのこと。「EOY Japan Startup Award 2018」の甲信越代表になった時の新聞記事。https://www.eyjapan.jp/newsroom/2018/2018-11-05-01.html

 

【山翠舎の紹介動画はこちら】

 

インタビューを終えて

山翠舎さんのオフィスは、お客様、各拠点、職人さん、協力会社など、関わる方全員との円滑なコミュニ―ケーションを実現した、古木™を使った素敵なオフィスでした。

古木™をあしらったデザインをオフィスに取り入れれば、古木™がそこにいる誰よりも”一番長生きしている存在”になります。

古木™の持つの温かみやストーリーに想いを馳せてみたりすれば、ふとアイディアがひらめくこともあるかもしれません。

山翠舎さんが紡ぐ古木™を通したストーリーが、オフィス空間の中でどのように繋がっていくのか、とても楽しみです。

 

 

社名 株式会社 山翠舎 (さんすいしゃ)
住所 本社:長野県長野市大字大豆島4349-10
東京支社:東京都渋谷区広尾3-12-30
URL https://sansui-sha.co.jp/